野球の国のアリス

野球の国のアリス (ミステリーランド)

野球の国のアリス (ミステリーランド)

ミステリーランド配本作品で、北村薫宇山日出臣に捧げた作品が、まったくミステリではなかったことにいちばん驚かされた。
『盤上の敵』を書いたあと、北村薫はきわめて私的な作品を書き続けるようになったという印象がある*1。本書もそうだ。北村薫が好きなもの、興味を持っているものが作品内に鏤められ、ひとつの作品を構成している。なだぎ武のネタまでがこっそり(?)引用されている。ただ、この作者と興味の方向性が一致しない場合、残念ながら読書は甚だ退屈なものとなる。今回は、こちらが野球に対しまったく興味がないためか、前半はまるで楽しめなかった。しかしさすがに北村薫というべきか、それでは終わらず、後半になり宇佐木さん(冒頭に登場する不思議な人物)がふたたび登場してからはなんとなく話も盛り上がってきて、それなりに楽しく読み終えることができた。
だから読後感も悪くはなかったのだが、しかしストーリーがしっかり存在するにもかかわらず、印象としては「半分小説、半分エッセイ」を読んだような感覚で(やはり作者の興味が露出しているからか)、正直これで良いのかしら、とも思ってしまった。もっとも子どもなら虚心に楽しめるかも知れないが。

*1:『六の宮の姫君』など、もともとそういう傾向の強い書き手ではあったが。