告白

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留保つきでの称賛。
第29回小説推理新人賞受賞作「聖職者」を連作化し、結果的にひとつの長編に仕立てた作品。読ませる力が圧倒的で、成程これはたしかに凄い、このままいけば絶賛に値する出来だと思ったのだが、読み進めるにしたがって残念ながら少し評価が萎んでしまった。
ひとつの復讐が波紋を広げる過程が描かれる。第一話「聖職者」のラストで明かされる復讐方法はなかなか凄絶で、これだけでも称賛に値するが、第二話以降の展開もまた素晴らしい。復讐の遂行に対し読者が感じただろう歪んだ爽快感を、作者は鮮やかに否定してみせるのだ。単純な善悪評価だけで世の中は成立しないということを示しているかのようで、見事だと思いながら読んでいたのだが、第四話以降この作品は、B級娯楽作品的な面白さに走りすぎたように感じられる(簡単に言えば「悪ノリしちゃいましたね」という感じ)。詳しくは書けないが、第五話で語り手を務める少年、この少年に自己の内面を語らせるべきではなかったのではないか。この少年の心の裡は伏せておいたほうが小説としての深みは増したのではないか。また、第二話の語りの信憑性を第五話で揺るがせたことにより、客観的な事実を語る者が誰もいなくなってしまった点も気にかかる*1。そこまで人工的な話にしなくてもいいのにな、という展開にどんどんなって、結末まで読み終えたときは、なんだかちょっと苦笑してしまった。
無類に面白いことは間違いないが、もっと上を目指せる書き手だと思う。今後に大いに期待したい。

*1:これは、語りの信頼性をどこまでも否定するための作為とも受け取れるが(本書にそういった側面があることは明らか)、作者はこの点では、そこまでは考えていなかったように思える。