修学旅行は終わらない

修学旅行は終わらない (MF文庫 ダ・ヴィンチ む)

修学旅行は終わらない (MF文庫 ダ・ヴィンチ む)

愛すべき作品なので作者には申し訳ないのだが、もっと面白くなりそうなのにならないという点において、やはりこれは失敗作と考えざるを得ない。
『風の歌、星の口笛』で横溝正史ミステリ大賞を受賞した作家の第三長編。ほぼ同一の時間帯を、視点を変えて何度も繰り返し描くことによって「ああ、あのときこの人はこんなところにいたのか」「この人はこのとき実はこんなことを考えていたのだな」と次々暴いてゆくという、多面的な構成が採用されている*1。映画などでは見掛けるが小説ではほとんど作例が見当たらない構成で、この構成を採用しただけでも野心的な作品とは言えるのだ。だが、いくら視点を変えているとはいえ、同一時間を六回も描いたのはさすがに無理があったのではないか。視点人物を半分程度に減らし、その代わり肝心の内容をもっと充実させてもらいたかったところだ。
また、この作者には理想とする世界観があって(たしか、あだち充が好きだとどこかで読んだような記憶がある)、その世界観を自らの手で実現させるべく頑張っているように思えるのだが、理想とする世界観を乱さないように努力するあまり、逆にその世界観に著しく縛られているのではないか。内容も微温的になりがちで、女子キャラのみならず男子キャラまでも印象が薄いのは、ひとえにこのためではないかという気がしてならない(若手男性作家が描いた男子高生の印象が薄いというケースは割と珍しいことだと思う)。オマージュを否定するわけではないけれど、これは第二長編『たゆたいサニーデイズ』でもぼんやりと感じたことで、決してこの作家には良い結果をもたらさないように思う。借り物ではない、独自の作風を模索してもらいたいと願う。

*1:近年では内田けんじ監督作品〈運命じゃない人〉が、この構成を採用した秀作だった。