地図男

地図男 (ダ・ヴィンチブックス)

地図男 (ダ・ヴィンチブックス)

第3回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞作。
地図帳に物語を書き散らしながら東京じゅうを徘徊している男を描いた作品。乱暴に言えば、古川日出男的な文章で沙藤一樹的な作品世界を描いている、というイメージか。読み始めた際は、複数の物語の破片がばら撒かれているかのような印象を受けたが、案外整理されて語られるので、実はきわめてわかりやすい話と言える*1
単に複数の物語を垂れ流しているような感もあるので、この裏に作者の冷静な計算が何らかの形で存在しているといいのにな、ないのかな、と思っていたら、あった。ここまではいい。しかし、ここでいきなり〈ダ・ヴィンチ〉購読者が如何にも好みそうなオチを持ってくるとは……かくっ、と膝から力が抜けそうになった(いや、実際に立って読んでいたわけではないですが)。なので褒めない。だからといってダークな方向や残虐趣味に走られても困るけれど……。オリジナリティ溢れる作風のようでいて、実はこの作家独自のオリジナリティはそんなに感じられなかったので(今はまだ小器用にまとまっている印象)、より一層の研鑽を期待したい。ストーリーを牽引する力は問題ないと思うので、今のままでは勿体ない気がした。

*1:わかりやいのは結構なことだが、それだけに物語の勝手な増殖・膨張という凄味やドライヴ感に欠けた点は残念だったような気もする。