ブラックスワン

ブラックスワン (ハルキ文庫)

ブラックスワン (ハルキ文庫)

なんとなく再読してみた。山田正紀が初めて手掛けた長編本格ミステリ*1
この作品が〈講談社推理特別書き下ろし〉叢書で刊行された際、SF作家の山田正紀がこんなにトリッキーで野心的なミステリを書き上げたことに驚かされたが、発表から十五年ほどを経たいま読み返してみると、山田正紀がこんなに端整でシンプルな本格ミステリを書いていたとは、というほうで意外な感に打たれる。『妖鳥』以後、『螺旋』『神曲法廷』そして『ミステリ・オペラ』と、山田正紀はゴテゴテした本格大作ばかり発表するようになってしまったが、個人的には『人喰いの時代』から『女囮捜査官』までの時代に書かれた、中規模程度の長さの諸作のほうに愛着を感じる。
しかし、『ブラックスワン』に限って言えば、いまこの作品を初めて読む読者は真相にすぐさま気づいてしまうのではないか。だが発表時点では、これはとても斬新なミステリだったのだ。

*1:その前に徳間書店から『人喰いの時代』が刊行されていたが、こちらは連作短編集(連鎖長編)で、純粋な長編とは言えなかった。