パルテノン

短編二本と長編一本を収録した作品集。いずれも古代ギリシャ(紀元前)を舞台にした歴史小説で、各作品を繋ぐ共通キャラクターは登場しないが、作品を順に追って読んでゆくと都市国家アテナイの約60年間の歴史が鳥瞰できる。
軽いミステリ的趣向を盛り込みながら、ひとりの偉大な巫女の生涯をカタルシスたっぷりに描く「巫女」、クリスチアナ・ブランド『ゆがんだ光輪』(ハヤカワ・ミステリ)やドミニク・フェルナンデス『シニョール・ジョヴァンニ』(創元推理文庫)ばりの変則的なミステリとしても楽しめる「テミストクレス案」。これらの短編も読み応えのある秀作だが、やはり本書最大の注目作は長編「パルテノン」だろう。この作品にミステリ的な趣向は含まれていないが、歴史小説政治小説、そしてふたりの男の友情物語と、かなり多面的な魅力を持った力作に仕上がっている。残念なのは登場人物のひとりである美少年リュシスの行動原理がかなり平凡なことで、彼を通して後の展開が簡単に想像できてしまうが、柳作品には珍しく登場人物にかなりの躍動感があることも確か。好感をもって読み終えた。
柳作品を他人に勧めるなら『はじまりの島』か本書だろう。初期代表作と推奨できるだけの出来栄えと言える。