アムネジア
- 作者: 稲生平太郎
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2006/01
- メディア: 単行本
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それはさておき『アムネジア』*1は、小説技術の未熟な作家では絶対に成立させられない、見事な緊密度の幻想小説である。ある事件を追い続ける主人公が調査の過程で感じ始める記憶の揺らぎは、やがて読者であるこちら側の足元まで揺るがすような感覚を与え、繊細な恐怖を齎す。しかしその恐怖の正体は何であるのか、そもそも主人公が追いかけていた事件の全体像とはどのようなものだったのか、それらは曖昧模糊として最後まで実像を結ばない*2。正直、あまり好みの小説とは言えないが、素晴らしいことは瞭然である。絶賛する読者が現れても不思議ではない、と思う。
ひとつ欲を言えば、Ⅲ章はもう少し別の展開の可能性も考えられたのではないか。あるいは少し性急だったか? ここで若干技巧に走りすぎたような印象があるのだが(それこそ不用意にミステリの匂いを感じさせてしまうような)。
なお、一見凝っているように見える装丁は、よく見れば投げやりなものでしかない。