摩天楼のサファリ

摩天楼のサファリ (扶桑社ミステリー)

摩天楼のサファリ (扶桑社ミステリー)

小傑作。『ボーン・マン』(文春文庫)以来の、チェスブロ作品待望の翻訳。
盗まれた神像を追いかけてアメリカにやって来たク・ング族の王子(正確には族長の息子)が、ガードマンを殺害して美術商のもとから神像を奪還、〈ニューヨーク・ジャングル〉に逃亡する話。――と書くと「それどこの『月長石』ですか」と言われてしまいそうだが、たいへん面白かった。
「冒険アクション」と帯にはあるが、幻想風味の追跡小説として抜群の出来。主人公は脳の障害のためか、夢の中で自在に別人の思考や行動を追体験できるのである(おまけにこの主人公、無茶苦茶腕っ節が強い)。筋立て自体はよくありそうなものなのだが、この主人公の能力が作品全体に鮮やかな個性を与えており、見事の一言に尽きる。大都会の中で逃げ延びようとするブッシュマンを描く筆も躍動感に溢れており、作者のマイノリティに対する暖かな視点にも好感が持てる*1。たいへん爽快なエンディングまで一気呵成に読み終えた。
というわけで、チェスブロの他作品の翻訳を熱望する次第。いい作家です。

*1:飽くまで軽いエピソードとして書かれているが、人類学者のレイナが族長の息子を是が非でも助けようとする理由は強い印象を残す。