時を巡る肖像

時を巡る肖像

時を巡る肖像

絵画修復師が六つの謎を解く連作短編集。
収録作品はいずれも珍妙な要素で構成されている。たとえば第二話にはバルコニーを落とす仕掛けがさらりと登場するが、バルコニーにそのような細工を凝らすのは相当難しいだろう。第四話では「赤い睡蓮の呪いにかかった」と口にする老女が登場するが、後で明かされる理由があったとしても、このような芝居がかった台詞を口にするとは思えない。表題作ではなんと軽飛行機がアトリエに突っ込んできて、それがもとで悲劇が起きるのである(ちなみにその事故では奇跡的に誰も死なない)。斯様にこの作品集は、多かれ少なかれ珍妙な要素で構成されている。
だからどんでん返しも真相もやはり珍妙な印象を受けるが、この作者は自分に都合の良いところでリアリティに逃げるようなことはしないので、終始一貫して珍妙さのレベルが保たれている(リアリティとの距離が保たれている、安易にリアリティにすり寄らない、と言ったほうが判りやすいだろうか)。結果として作品全体としては妙なバランスが保持されており、まるでシュルレアリスムの絵画を眺めているかのような不思議な美しさを感じさせる瞬間があるのだ。正直好みの作家ではないが、それでも時折妙に柄刀作品が読みたくなるのは、そういうスリリングな瞬間があるからだと思う。
文章も今回は比較的読みやすく、実業之日本社の丁寧な仕事ぶりがうかがえた(『Fの魔弾』とか、ひどかったもんなあ)。