ルピナス探偵団の憂愁

ルピナス探偵団の憂愁 (創元クライム・クラブ)

ルピナス探偵団の憂愁 (創元クライム・クラブ)

素晴らしい。
四編収録。それぞれの作品で本格ミステリとしての色合いを巧みにずらしていて、「百合の木陰」は〈日常の謎〉風、「犬には歓迎されざる」は衒学趣味たっぷりの一編、また「初めての密室」はミスリードを大いに活用して真相から読者の目を逸らしている。正統的なパズラーを志向していた前作『ルピナス探偵団の当惑』(創元推理文庫)よりは謎解きがカジュアルになった印象を受けるが、完成度はいずれも高く、こちらはこちらで楽しめる。
ただ、本書の最も重要な点は別のところにある。冒頭でいきなり、ルピナス探偵団のひとりが若くしてこの世を去ったことが明らかにされ、以下各話ごとに時は遡り、最終話では遂に彼女たちの卒業式当日が描かれるのだ。これは、悲しい。泣けと言わんばかりの構成ではないか。――ただ、この構成は、読者を泣かすことを目論んだものではないように思う。この構成を通し、作者は「人生の最も美しい瞬間」を描こうとしたのではないか。人生の最も美しい瞬間は回想の中にこそ存在する――というのはある意味寂しいけれど、本書のラストは回想形式を採用したからこそ、奇蹟のように美しい。まさにこれは、帯にあるように、「津原泰水だからこそ書き得た傑作」なのだと思う。「連作ミステリとしてのオチが無いのが不満」などと言われないためにも、敢えて本格ミステリファンにはお勧めしたくない逸品。