完全演技者(トータル・パフォーマー)

完全演技者

完全演技者

新作のたびにこれほど作風が違って良いのだろうか。『オルガニスト』(新潮文庫)で日本ファンタジーノベル大賞を受賞してデビューし、歴史小説『われはフランソワ』(新潮社)で直木賞候補になった山之口洋の、戦記小説『瑠璃の翼』(文藝春秋)に続く新作がこれ。
根幹にはSF的なネタ(ミステリ的でもある)が存在するので、SFと芸術世界の融合ということではデビュー作『オルガニスト』の系譜を継ぐものといえるだろう。結末まで読むと、本書のタイトルが『完全演技者』以外あり得なかったことがしみじみと納得できる。ただ、SF的ネタがパフォーマーという設定を導き出したのだろうと思われるが*1パフォーマー(芸術)の物語として読むとやや物足りず、また手垢のついたアイテム(クスリなど)を使用することなどで展開に想像がつきやすい点が気になった。
とはいえ、真正面からミステリとして描けばあまりに古めかしくなっただろうネタを、一般文芸的な書き方をすることによってスリリングな読み物に仕立てている点がお見事*2。細かく張られている伏線から読者の目を上手く逸らしている。逆説的だが、結果としてミステリ・ファンにもお勧めできる作品になっている。

*1:いや、もしかするとネタ自体が日本の伝統芸能に由来するものかも知れないけれど。

*2:このネタをミステリとして書くとこうなる、という作品を思い出したが、ややネタバレ気味なのでリンクを貼るだけに留めておく。ISBN:4787584847