少女には向かない職業

少女には向かない職業 (ミステリ・フロンティア)

少女には向かない職業 (ミステリ・フロンティア)

ディスコミュニケーションとコミュニケーションの話として読めた。相互理解を拒絶しているわけではないのに埋まらない家庭の溝(主人公の母も成長しなかったひとりの少女であり、少女には向かない職業=母と読むことも可能だろう)、その環境の中で次第に交流を深めてゆくふたりの少女。異常事態下で少女たちが揺らぎながら信頼関係を築いてゆく過程が素晴らしく、さらにはその一方で、関係を築いたはずのコミュニケーションツールのひとつに重大な仕掛けを施しているところにも唸らされた。ふたりの関係が絶頂を迎える(プラス方向にか、それともマイナス方向にかは書かないが)のがクライマックスであるところも実に周到。エモーショナルな、それでいてかなり理性的な計算が感じられる傑作である。
10月には『ブルースカイ』も刊行されることだし、桜庭一樹は今後ますます注目される作家になることだろう。