女形

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『マッチメイク』で乱歩賞を受賞した新鋭の受賞第一長編。取り敢えずミステリとしての出来はさておいて、これはかなりの力作だと思う。歌舞伎を題材にした作品だが、たとえば歌舞伎役者の舞を科学的に分析してみせるシーンがあったりして、戸板康二近藤史恵の著作とは違う味わいがあるところが面白い。読んでいる途中は設定がややつくりすぎと感じられたが(主人公の身体的特徴など)、歌舞伎というテーマと合致していることは否定し難く、また若手役者の成長小説的側面や芸道小説としての側面もうまく押さえられていて、予想以上に面白く読めた。取材力もあるし、キャラクターもよく描けている。世間のあまりの悪評ゆえに乱歩賞受賞作『マッチメイク』はスルーしてしまったが、少なくとも本書のほうはなかなか読み応えのある作品と言えよう。読んで良かったと思う。
しかし、ではミステリとして捉えるとどうか、といえば――残念ながら、褒めることはできない。いまどきあのネタを中心に持ってくるのは時代錯誤的で、犯人を示す手掛かりや探偵役の推理も行き当たりばったりに思え、ミステリとして優れているところはほとんど見当たらない、と言って良い。
折角読み応えのある小説を書き上げられる力の持ち主なのだから、今後はミステリとしての骨格に力を入れてほしいと切に願う。次の作品に期待。