疑惑

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碧天舎〈家族小説コンテスト〉出版化奨励作に選ばれて出版された作品集――らしい。それよりも、ミステリファンにはこう書いたほうが多少は注目を引くだろう。著者は1997年にオール讀物推理小説新人賞を受賞した書き手で、本書にはその受賞作「道連れ」も収録されている*1
家族小説コンテストに合わせたのか、収録四編すべて似たような設定なのが気にならないわけではない。さらには姑の介護問題、熟年離婚、子育て、リストラと、題材・内容ともにあまりに素朴に思えるが、――しかしこれがいいのだ。新人としては、かなり力のある書き手だと思う。いずれの短編にも慎ましやかながらミステリ的な味付けがあるのも好印象で、こういう書き手は(とくにミステリの世界では)しばらく現れていなかっただけに、今後の活動に注目しておきたい。
なお、こういうのを「地味だ」と切って捨てそうな若い読者は最初から手に取らないほうが懸命だと思う。

*1:「道連れ」はその年の日本推理作家協会編の年鑑アンソロジーにも収録された好編である。