悪党たちは千里を走る

悪党たちは千里を走る

悪党たちは千里を走る

成程これはたしかにシリアスには書けないストーリーだろう。いくつかの場面で作者は読者の意表を衝こうとしているが、かなり強引な意表の衝き方なので、ユーモア・タッチにしてくれなければこちらとしても到底納得はできない。だからこそ、戯画的なキャラクター造形は正直好みではないけれど、これは計算の結果なのだと思う。もっと陰影があれば、トニー・ケンリックの高みに近づけるかも知れない*1
プロットは、とくに「犯人がどこに潜んでいたか」という点において、前作『追憶のかけら』に近い印象を受けた。しかし、犯人の無邪気な悪意が強烈な印象を残した『追憶のかけら』と比べると、今回は犯人の設定が作品そのものを徒に小さく纏め上げてしまった感が否めず、その辺りは残念。しかし、肩の凝らない読み物をお求めの方には、読みやすく意外性もあり後味も良いということで、読んで損の無い作品ではなかろうか。

*1:当然、ここで念頭に置いているのは『リリアンと悪党ども』(角川文庫)。