名なし鳥飛んだ

第三回サントリーミステリー大賞受賞作。著者の土井行夫は関西の放送業界で名を馳せた脚本家で、この新人賞応募作が小説の第一作だったが、受賞が決定する直前に急逝した。
三丁目の夕日』のノスタルジーに触発され、未読の本の山から引っ張り出して読んでみた。とはいえこちらはもっと時代設定が古く、終戦直後の大阪の学園が舞台になっている。脚本家だったからか会話文(大阪弁)が上手く、登場人物が多いにも関わらずそれぞれの描き分けも達者で、するすると読めてしまった。展開も滑らかで心地良く、著者の小説がこれ一冊きりというのはあまりに惜しい。
ミステリとしては、前述したとおり登場人物が多いのでスマートな謎解きとは言いかねるが、フェアに真犯人を限定しようとしている心意気が嬉しい。ラストの余韻もなかなかのもので、埋もれてしまったのが残念に思われる本格ミステリの佳作。