密謀の王宮

密謀の王宮

密謀の王宮

第七回歴史群像大賞優秀賞を受賞した時代ミステリ。話題になっていないのでつまらないのかと思っていたら、予想以上に楽しめた。ルイ15世の愛妾ポンパドゥール公爵夫人がこの世を去り、宮廷は次の王の愛妾の座を巡る権謀術数に彩られ、ついには殺人事件が起こる。
この作者はかつて磯辺立彦名義で大和書房から『フランス革命殺人事件』という作品を上梓しており*1、『密謀の王宮』はその『フランス革命殺人事件』の前日譚にあたる。『フランス革命殺人事件』で探偵役を務めたラウル・フェルタンの幼少の頃、デュ・バリ伯爵夫人のもとに奴隷として献上されたあたりのエピソードが描かれているのだ。ミステリ味は淡く、その興味だけでこの小説を手に取ると幻滅しかねないが、華やかな時代を判りやすく(それはもう、もう少し威厳を込めた文章にしても良いのではないかと思うくらいに簡潔に)描いてあるので楽しく読める。後半の展開が駆け足なのが惜しまれるが、これ以上長くなられても困るので、これはこれで良いのだろう。埋もれたのが気の毒な佳作。そのうち『フランス革命殺人事件』も読み返してみよう。

*1:1983年刊。同一の叢書から辻真先『天使の殺人』、赤川次郎『冬の旅人』などが刊行されている。