春待ちの姫君たち

巷で噂のリリカル・ミステリー
完成度で評価するなら本書は傑作ではない。傑作と呼ぶにはあともうひとつ何か、突き抜けた要素が備わっていてほしいと思うし、物語の収め方もやや強引だ。……しかし作者の将来的可能性、潜在的能力を視野に入れつつ評価するなら、これはもう絶賛するしかない。第一幕の終盤でメイン・トリックと思われた謎がいとも簡単に明らかにされてしまい、矢継ぎ早に第二幕が始まるに及んで、作者がこのあといったい何をやる気なのか想像がつかず途方にくれてしまう。体よく作者に翻弄されてしまうのだ。そして、それよりもっと感じ入ったのは作中にほんの少しだけ登場する戯曲の扱い方。この見事さには目を瞠らされた。いやいや、煌びやかな才能が登場したものだ。デビュー・レーベルがコバルトというところが非常に心配だが、飼い殺しにされないことを切に願う。自らが書きたい作品世界を、何者にも縛られずに自由に書いていってもらいたい。