円環の孤独

円環の孤独 (講談社ノベルス)

円環の孤独 (講談社ノベルス)

2050年の宇宙と過去の英国、時空を超えた二つの時代で起きた密室殺人の行方は。
舞台設定はある意味荒唐無稽だが、堅実で、地味ですらある本格ミステリ。過去の英国を舞台にしたパートにはクリスティ的な雰囲気すら漂う。小説的な魅力はほとんど無く、キャラクターも(探偵役を含めて)単なる駒でしかない、そういう意味でも黄金期の本格に近いスタンスの作品と言えるが、そういう古式床しいスタンスを好む本格ミステリファンには好感を持って迎えられるのではなかろうか。かく言う自分もそのひとり。密室状況作成の理由がやや弱く、また謎解きの場面には大上段に構えるようなケレン味がもう少しあって良いが、次の作品も読んでみたいと思わせた。
この古式床しい作品が新本格ファンに受け入れられるかどうかちょっと心配ではあるのだが、個人的には本格探偵小説の思い出を微妙にくすぐる小味な佳作として記憶に留めておきたい。