サーカス市場

サーカス市場

サーカス市場

『滅びのモノクローム』(講談社)で江戸川乱歩賞を受賞した作家の綺譚集(ミステリではない)。仙台にある小暗く謎めいた市場「サーカス市場」を舞台とした連作となっている。
ファンタスティックなストーリーを描くには文章が痩せているし(イマジネーションが喚起されない)、またこの作家は釣りが好きなのだろうが、ほとんどの話に釣りを絡ませているためネタに乏しい印象を受けてしまう。連作だからか毎回同じ登場人物が顔を出すのだが、果たしてそれも効果的だったかどうか。魅力的な舞台の割に、とても狭いところで窮屈に話が展開されているように思われてしまうのだ。
……が、その一方で、奇妙な魅力があることも否定できない。なんというか、とても不器用でデタラメな話を毎回聞かされているような感に陥るのだが、それがある意味心地良くなってくる、というか……結構の巧拙だけで小説は語れないものなのだな、と感じさせられた。お勧めはしないが、この作家の奇妙な部分を味わえる一冊だった。しかし釣りは前作『死水』(講談社)のように、本格的に釣りの話を書くときだけネタに使ってほしいと思う。ストーリーから遊離している。