忘れないと誓ったぼくがいた

忘れないと誓ったぼくがいた

忘れないと誓ったぼくがいた

タイトルが絶妙。
「(彼女のことを)忘れないと誓ったぼく」は最早存在しない。いや、すべては捏造である、という可能性も否定できない。しかし、かつてはたしかに存在したと信じたい――「いた」という過去形にこれだけの意味を込める手腕は並大抵のものではない、と思う。
内容は、大雑把に言えば「小川洋子の某作*1ジャック・フィニイ*2」に、近来人気を博している繊細な青春小説テイスト*3を振り掛けたもの、という印象。近似する先行作を引き合いに出して小説を語るのは基本的にはあまり品の良い行為ではないと思うが、この小説は敢えて引き合いに出してみたくなる。それら先行作から微妙に外れたところにこそ、この小説の曰く言い難い個性が存在すると思うからだ。この作家の一筋縄では行かない実験文学的な野心がそこに垣間見られて興味深いが、その個性が素直にストーリーに浸ることを阻害してもいるわけで(物語の外に立つと、この話には主人公を突き放すかのような客観性が観測できるわけで)、読者の興味が奈辺にあるかで評価も変わってくるだろう。個人的には、作者の力量は高く評価できるが、力強さにはやや欠けるかな、という印象を持った。

*1:博士の愛した数式』というよりは『密やかな結晶』。

*2:『ふりだしに戻る』や「愛の手紙」よりは『マリオンの壁』。

*3:性欲は存在しないことになっているかのような――。