ある愛の詩

ある愛の詩 (角川文庫)

ある愛の詩 (角川文庫)

よく考えれば、新堂冬樹の本を読むのはこれが初めて。ちょっとした事情があって手に取ったのだが、読み進めながら面食らった。何なのだろう、これは。
小笠原の自然に育てられた純真な青年と、心に傷を持つ声楽家の女性のラブストーリー。「ここまで純真な人間がいまどきいるか」「母親代わりがイルカか……」「展開がベタすぎる」など批判点はいくつも頭の中に浮かぶのだが(ホストクラブまで登場したときには笑ってしまった)、しかしそういう批判を投げ掛けて事足りる作品ではない。何しろタイトルがタイトルなのだ、作者だって意図的にやっているとしか思えない。この作品、過度にファンタスティックな雰囲気を纏っていることもあるだろうが、読者に媚びるような嫌らしさが感じられず、徹底的に爽やかで力強い小説になっているのだ。このタイプの作品は大の苦手であるはずだが、不思議と面白く、一気呵成に読んでしまった。何だろうなあ。他の作品で人間の嫌らしさを徹底的に追求しているからこそ、逆にここまで純真な小説を何の衒いも無く描けるのか。癒し系恋愛小説が大好物という方は読まないと損、と言って良いだろう。