白薔薇と鎖

白薔薇と鎖 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

白薔薇と鎖 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

時代娯楽小説家としての確かな手腕を感じる。
ヘンリ8世統治下の頃の英国の歴史にまったく興味の無い読者、および本格ミステリの要素のみを期待して本書を手にとった読者がこのストーリーを満喫できるのかどうかは正直不安だけれど、それでも本書は頗る面白い娯楽小説である。よくもまあ実際の歴史を外れずにここまでいろいろ法螺を吹いたり大風呂敷を広げたりできるものだ、と感心した。これは語りの面白さで成り立っている作品だろう。とはいえ歴史を扱う作者の手捌きには緻密さが感じられ、そこがまた好ましい。
密室は飽くまで彩りに過ぎないので、その解法の斬新さや切れ味の鋭さは毫も期待してはならない。しかし、こうやってミステリ的な面白さを盛り込むことによってストーリーに華を添える手法は、昭和の国産時代伝奇小説そのままではないか。というわけで、ドハティの今後の翻訳紹介を大いに期待する。