出口のない部屋

出口のない部屋 (ミステリ・フロンティア)

出口のない部屋 (ミステリ・フロンティア)

『密室の鎮魂歌』(東京創元社)で鮎川賞を受賞した新鋭の受賞第一長編。浅ましい人間たちが右往左往する、悪趣味で品の無いミステリだが、だからこそ妙に面白かったりする。ほとんどブラック・コメディの領域。
まず文章が安手で品が無く、この文章で真面目な内容のものを描かれては噴飯ものだが、しかし作者もその辺りのことはよく判っているのか(いないのか)、嫌らしくてえげつない人間関係がこってりと書き進められる。こんなことを書くと批判しているように受け取られるかも知れないが、この作品の場合、B級テイストが全編に漂っているので不思議と愉快。エゴむき出しの登場人物には誰ひとりとして感情移入ができず、だからこそ誰が追いつめられてもニヤニヤしていることができる、というたいへん意地の悪い作品に仕上がっているのだ。『密室の鎮魂歌』において僅かなりとも感じられたお洒落な雰囲気はもはや見る影すら無く、ある意味作者の資質が存分に開花した怪作と言える。
真相は比較的簡単に見当がつくし、恣意的な視点の移動など未熟な小説作法も目につくが、入れ子構造にすることでプロットを整理しようと努めているところは好感度が高い(これほどぐずぐずな人間関係の話を無邪気に楽しめるのは構成がしっかりしているからで、構成がしっかりしていなければ単に気色の悪い話に堕してしまう*1)。創元カラーがお好きな方にはお勧めしない、しかしひとの悪い読者にはこっそり「旦那、いいものがありますぜ」とお勧めしてみたい作品なのだった。

*1:申し訳ないが真梨幸子の『えんじ色心中』(講談社)にはそういった印象を受けた。