ぜつぼう

ぜつぼう

ぜつぼう

電波少年みたいな番組に出演して一瞬だけ脚光を浴びた若手芸人が転落の一途を辿り果ては引きこもりになって暫くしたところから、この小説は始まる。
主人公の境遇はかなり無残で、しかし作者はこの主人公を滑稽に描く。村に住む外国人と宴会芸を練習せざるを得なくなる場面はとりわけ滑稽だ。三島由紀夫賞の候補に挙げられた最近注目の作家の新作だからといって、本書が優れた文学だとはとくべつ思わないけれど、ペーソスが漂っていてそこそこ楽しめた。後味も悪くない。
なかなか鋭いところを突いているなと思われたのは、絶望の淵に佇む人間が太巻を平らげてサトームセンのCMソングなんか口ずさんじゃいけないんだと、主人公が自らを責め苛む場面。絶望していても人間はお腹が空くし無意識に歌を口ずさむことだってある、そういうアンビヴァレンツな滑稽さを描くと同時に、「絶望ってどこまで絶望すれば絶望していると言えるのか」と考えさせて興味深かった。ここを読めただけで本書を読んだ価値はあったと思う。