戦後創成期ミステリ日記

戦後創成期ミステリ日記

戦後創成期ミステリ日記

碩学の20代の頃の原稿が一冊に。
しかし、碩学紀田順一郎の著書といえども、本書は血気盛んな20代の若者が書いたもの、というレベルを超えてはいないと思う。鋭い指摘も見られるが、容赦なく振り撒かれる毒が発言の価値を台無しにしている場面も見られ、SRマンスリーで連載された名のみ聞く伝説の書評とはこの程度のものだったか、とやや拍子抜けした。むしろ本書が出版された意義は、(それこそ紀田順一郎自身が記しているが)時代を語る日記としての側面で、その意味ではたいへん興味深い。清張はともかく、水上勉の長編ミステリ(『海の牙』!)までをも若い頃の紀田が高く評価していたことを知ってびっくりした。これもまた時代のなせる業だろう。