乱鴉の島

乱鴉の島

乱鴉の島

「またとなけれめ」じゃなくて「またとなけめ」じゃないだろうか(121ページ)。誰か教えてください。ところでこのタイトルって「らんだの城」のモジリだろうか。
火村シリーズ四年ぶりの長編にして初の孤島ものだそうだが、有栖川初の孤島ものならともかく、この作者には『孤島パズル』(創元推理文庫)が既にあるからなあ……。それはさておき、途中でやめようと思わない程度には面白かったが、結末まで読んで複雑な気分になった。自分にとってこの真相(みんなが島に集まっている理由)は、それこそ東野圭吾の『容疑者Xの献身』以上に気色が悪い*1。「崇高な愛の物語」じみた筆で描かれなければここまでの拒否感覚は持たなかったはずなのだが……。
あと、作中に登場するカリスマ社長が明らかにライブドア前社長をモデルにしたもので、いくら何でも現時点では生々しく、品の無い作品だな、と感じた*2。断っておくが本格ミステリの見地からは、ライブドアな社長を登場させることに必然性があり、少なくともその点は見事だと申し上げておく(この辺りに立脚する真相はなかなか意外なもので、こここそ本書いちばんの読みどころと言える)。しかし、べたべたと気取った文章に時事ネタ、しかもこの真相では、小説としては到底好きになれないのだった。

*1:とくに、拓海と鮎のふたりが島に連れてこられた理由が……。

*2:この作者はたしか『マレー鉄道の謎』(講談社文庫)でも、何かに擬えつつ明らかに脱格系作家陣を当てこすっていて、そういうところが好きになれない。