アインシュタイン・ゲーム

アインシュタイン・ゲーム (講談社ノベルス)

アインシュタイン・ゲーム (講談社ノベルス)

25ページまでは面白かった。
とにかく驚かされたのが「講談社ノベルスで今更このトリックをメインに据えた長編を刊行するか!?」という点。これは作家の責任というより文三編集部の責任が大きい(新人潰しに等しい蛮行だ)。まったく同じトリックを、ほとんど同じ演出方法で使用して本書よりスマートに仕上げた作品を、少なくとも二つこの編集部は出版している*1。図を見ただけで「まさかね」と思い、最初から外した可能性が真相だったとは! などという意外性は求めていません(まさかそれを狙ったわけではないと思うけれど)。先行作に対する敬意が欠片も感じられないのはライトノベル業界だけで充分だ。
もうひとつ、作者のことばに書いてある「もうひとつのテーマは、笑いです。合理的であるべき推理小説に、ギャグを和えた非合理的なスラプスティック・ドタバタ・コメディ風のソースをかけたら、どんな味になるのか――」については、「食えたものではない」というのが正直なところ。テレビレポーターに向かって「景品いらないから乳揉ませろ」だの、「ザナドゥ鈴木さんか。ウド鈴木という芸人がいましたね?」だのがこの作者における「スラプスティックな」コメディだと言うのなら、作者は金輪際コメディは描かないほうが無難だろう。好感触だったデビュー作の、あの地味な作風にぜひ立ち返って戴きたい。
冒頭(アインシュタイン博士が猟奇殺人に巻き込まれるシークエンスはきわめて魅力的なものだ)を除けば、どさくさに紛れてマックス・アフォードの名前が出てくるところだけ印象に残った。たまには森博嗣の作品も読んでみてください。正直アフォードより面白いと思うから。

*1:トクマノベルズでもたしか×川薫がこれと同じトリックで長編を書いていた。