氷の華

氷の華

氷の華

昨年、幻冬舎ルネッサンス(=幻冬舎共同出版部門?)から刊行された作品を商業単行本化したもの。六十歳の新人のデビュー作。
新味はどこにも見当たらず、どちらかというと古めかしい。殺人を犯す主人公は三十五歳の女性だが、著者の年齢を反映してか、この年代の女性にしては(既婚とはいえども)老けすぎている。全体的な印象として、たとえ三十年前に書かれた作品だと言われても何も不思議には思わなかっただろう。……などという欠点を撥ね退けて、本書は抜群のリーダビリティを備えた秀作である。
四百ページを超える長さながら、主人公は冒頭の三十ページで早くも殺人を行い(あまりにも展開が速いので驚いてしまった)、それ以降は犯人である彼女と執念深く真相を追う刑事との対決がじっくりと描かれてゆく。と書くと一本調子の展開のように思われそうだが、この作品、派手さは無いながら、常に新事実の登場や展開の意外性で読ませるのだ。六十歳の新人のデビュー作ということで甘く考えていたのだが、本書の魅力は磐石な構成力であり、これは嬉しい誤算だった。第七章など、作者が小説の構成に関心が無ければこんな書き方はしなかっただろう。逆境に遭っても挫けることなく、不屈の闘志で刑事の裏をかこうとする高慢なヒロインの造形も(老けすぎている点を除けば)文句なし。新味を求める読者にはまったくお勧めしないが、倒叙ミステリの秀作として今年(実際は去年発表の作品だが)の収穫とすることに躊躇いは無い。いやはや次回作が楽しみだ。