楽園ヴァイオリン

途中までは一話完結の連作短編集としても読める長編。『盤上の四重奏』姉妹編。
残念ながら感想は『盤上の四重奏』と同じで、以前と同じことを再度書いておくと「友桐作品の長所は登場する少女たちがくっきりと鮮やかに描けているところだと思うが、リアリティの欠落した舞台の上に登場した少女たちは予想以上に魅力を感じられなかった」。おそらく友桐夏のファンの方々は終盤において現れる(今回もそうだ)不穏な人間関係を好むのだろうが、個人的には『盤上の四重奏』と同様、舞台となるあの現実感が欠落した「塾」に空々しいものを感じてしまうため、すべてが絵空事に思われて虚心に楽しめないというのが正直なところ。終盤ではデビュー作『白い花の舞い散る時間』で描かれた人間関係をも把握しておくことが必要になるため、単独としては到底評価し難い作品となっている点も引っ掛かった*1
但し、各章の最後には「日常の謎」的な謎に対する解決が用意されており、個人的にはこちらのほうを楽しんで読んだ。短編としてそれぞれの章を取り出し眺めてみても、なかなか良くできていると思う。これにより、友桐作品の中では第二長編『春待ちの姫君たち』に続いて気に入りの作品となった。
まあ、不満は言いつつも、この作家が最近のデビュー組では傑出した存在である、とは思っているわけです。

*1:それなのにイラストレーターが今回変更されているという点から考えても、この作者、やはり編集部から冷遇されているのではなかろうか。