天使の眠り

天使の眠り

天使の眠り

通俗まっしぐら。
結論から言えば、本書は岸田るり子のこれまでの著書の中ではミステリ的に最も面白い。あまりにあり得ない点(簡単に言えば医学技術の習得の点)を含んでいるので完成度が高いとは決して言えないのだが、やろうとしていることの面白さは買う。シンプルな仕掛けなのだが効果的であり、未読の方は真相を見破れるかどうかぜひトライしてみてもらいたい。
……と、自分としては割と好感を抱いた作品なのだが、通俗の度合は、あの素晴らしい通俗っぷりを見せつけてくれた怪作『出口のない部屋』(東京創元社)さえをも凌駕してしまっており、ここまでくると無邪気に「通俗だー」と言って喜んでいてはいけないのではなかろうか、という気になってきた。要するに、作品のバランスや文章がぐずぐずになってきているのだ(たとえば、冒頭30ページの冗長ぶりは凄まじい)。書きっぱなし、というか。このあたりで、均整の取れた美しい構成というものを真剣に考えたほうがよいと思うのだが。