夏光

夏光

夏光

大型新人の登場。ホラーというより、奇怪な状況を前にした人間たちの物語。
冒頭の表題作(オール讀物新人賞受賞作)を疲れた頭で無防備に読んでいたら、この小説の意味に気づくことなく読み終えてしまい、あまりにさらりとした結末に戸惑ったのだが、終盤を再読してみて慄然とした。気づかないまま読み終えてしまった自分が馬鹿なのだとしか言い様が無いが、この作品は美意識といい構成といい、近来稀に見る短編の傑作である。
この表題作だけでも絶賛する気満々だったのだが、続く「夜鷹の朝」、これがまた素晴らしい。その後も「百焔」「は」「Out of This World」と佳作が続き――ファンタジー要素を上手く取り入れたり、ブラックユーモアめいていたりと、それぞれ描き分けている――最も過酷な内容の巻末短編「風、檸檬、冬の終わり」のラスト、主人公の少女が嗅ぎ取った匂いの正体とは何だったかを知らされるに及んで、完全にノックアウトされてしまった。帯には「恐怖の女王、降臨!」という扇情的なコピーが踊っているが、控えめな文章と仄かな文学的香気が好ましい、まさに今年最高の新人作家だと思う。