ヴィズ・ゼロ

ヴィズ・ゼロ

ヴィズ・ゼロ

大器への第一歩。
ハイジャックされた飛行機が関西国際空港に降り立つ。そこからの心理戦を丁寧に描いた作品で、まずは誰もが思いつきそうでしかしまだ誰もやっていなかった「関空陸の孤島にする」というアイデアが秀逸。ストーリーや人物造形の端々からは高村薫の強い影響を感じ取れてしまうものの、デビュー作の段階で高村薫ほどの作家の模倣(というのは言い過ぎだが、他に上手い言い回しが見つからないのでお許し戴きたい)ができるのだから筆力はしっかりしたものと認めるべきだろう。数多い登場人物を描き分け渋滞なく動かしてゆく手際も新人離れしている。
惜しむらくは、後半に待ち受ける逆転に心理的な無理が感じられてしまうことで(逆転の鍵を握る人物の心理に無理が生じている)、これにより後半大きく崩れてしまったという印象は否定できない。描き込み不足のためとも考えられるので、ここはもう少し腰を据えて最後まで描き込んで欲しかった。
しかし、デビュー作にかける著者の気迫は充分に感じ取れる。明日の「大器」の第一歩を見届けたい方には必読の作品。