東京駅之介

東京駅之介

東京駅之介

終戦後東京駅に捨てられ、その場凌ぎのように東京駅之介と名づけられた少年が日々を懸命に生き抜く。第二回小説現代長編新人賞奨励賞受賞作。
タイトルや題材選びの素晴らしさに比べ、内容は若干新味に欠ける。その点は否定し得ないが、しかし描写の誠実さと力強さはそれを補って余りある。人物造形も印象に残る。主人公の駅之介は少年らしい純真さを持つ一方で、少年らしい狡猾さも併せ持っている。そこがいい。夢物語など描こうとせず、現実的な立脚点から過酷な状況をさらりと描いてゆく筆致が好ましいのだ。その延長線上に置かれた、ある意味で読者を突き放すようなラストは賛否両論かも知れないが、個人的には喝采を送りたい。このラストだからこそ、この作品は記憶に残る小説になったと思う。
この新鋭が次に何を書くのか想像がつかないが、おそらくは期待してかまわないと思う。