雲上都市の大冒険

雲上都市の大冒険

雲上都市の大冒険

眩暈がするほどいい加減極まりない作品なのに、嫌いになれないのはどうしてだろう?
「辛うじて成立している」としか言えない時代考証(というか、編集者と校正者で無理矢理辻褄を合わせたとしか思えない)、ラフというよりいい加減なトリック、真相を聞かされても釈然としない「平仮名」の意味、無茶苦茶なキャラクター造形、馬鹿馬鹿しい真相。褒めるところが見つからない作品――のはずなのに、率直に言って面白かった。現在の本格ミステリが失ってしまった「何か」がこの作品には存在するように思えるのだ。昭和の娯楽読物みたいな味わいがあるから? 確かにそうかも知れない。しかし、何というか、それよりもっと根源的なものではないか。登場人物がみな謎に対し興味を持っていて、話の中心には常に謎があり、謎によってストーリーが動いていって――そして、名探偵が真相に辿り着いた瞬間の、あの期待の高揚!
なお、本書は徹頭徹尾無邪気であり(明るいというよりは躁的)、マニア的な嫌味がほとんど感じられなかった点も好感度にひと役買っていると言えるだろう。この新人がいずれ傑作を書き上げるという期待は微塵も持てないが、それでも、この著者の新作が出たらおそらく読まずにはいられない――かも知れない。