ホームシックシアター

ホームシックシアター

ホームシックシアター

近年にわかに腕を上げた作家の、初の短編集。日本推理作家協会賞(短編部門)の候補になった表題作ほか五編を収録*1
たまに企画ものの書き下ろしアンソロジーなどで短編を読んでいたのだが、その頃の作品は構成・文章ともに素人じみていてあまり感心しなかった(『女優』などの長編にも粗さが見られた)。今でも言葉の選び方には粗さを感じるけれど、しかし内容のほうは以前と比べれば格段に進歩していて、これは嬉しい驚きだった。女性の嫌な部分を切り取って描き出すのがとにかく上手く、ストーリーづくりの力量も上がっている。もっと洗練されたら山本文緒のような作家になれるかも知れないが、しかし女性の嫌らしさを剥き出しにするようなアクの強さもまた魅力なので、これはこれで良いのだろうと思う。
協会賞候補になった表題作には実はそれほど感心せず(アイデアはとても面白いのだが、そのアイデアを傑作にするには技巧が足りていないのが残念)、むしろ協会賞候補にならなかった「オーバーフロー」「セルフィッシュ」に感心。とりわけ「セルフィッシュ」の嫌らしさ溢れる展開とラストの残酷さは素晴らしく、こちらを協会賞候補に選んでほしかったと残念に思わざるを得ない。
なお、明らかに出来が悪い「おさななじみ」が巻末に収録されているところには首を傾げた。巻頭と巻末にこそ最も出来の良い短編を持ってきそうなものだが。

*1:上の表記は誤字で、「春口祐子」ではなく「春口裕子」。