少女ノイズ

少女ノイズ

少女ノイズ

殺害現場(元殺害現場)の写真を撮るのが趣味の青年は、自分を下僕扱いする美少女に会いに(学園の塔ならぬ)予備校の屋上へ日参する。
……というわけで、「ふーん『GOSICK』+『GOTH』なのね」という設定のもと執筆された三雲岳斗の久しぶりのミステリ。この作者の作品はミステリしか読んでいないが*1、いずれも設定に「この作家ならでは」という個性が感じ取れず、それは本書も例外ではない。但し、後述する理由により、この作者のミステリでは最も印象的な作品になっていると思う。
五編収録のうち、前半二編の謎解きは洗練とは対極にあるもので、きわめて偏っているというか異質というか、複数のアイデアをざらざらした感触のまま放り出しているような感があり、単独ではとても褒められない。この感触は次第に薄れ、結構が丁寧になり、集中では最も完成度の高い四本目「あなたを見ている」*2を経由して、端正な「静かな密室」で連作は結末を迎える。
ならば後半のほうが読み応えがあるのかというと、……読み終えて複雑な思いに駆られた。各話それぞれに評価するなら後半のほうが単純に出来は良いけれど、しかし設定を活かした謎解きを何とか展開しようと作者が心を砕いているように思われるのは前半なのだ。謎解きの粗さまでもが、設定や登場人物たちの心象風景と合致させるために目論まれたものであるかのようで、作者が本当にこの辺りを狙っていたのだとすれば、驚くべき離れ業だと思う。
しかし、そう考えるなら、後半に進むにしたがい作品が普通のミステリへとシフトしていった点は、見逃せない瑕疵にも転じてしまう。連作が進むにしたがって主人公たちが単なる普通の少女と青年に「堕して」しまった点も、口当たりの良さという観点からなら評価できるけれども、設定から考えるならやはりこれは作者の敗北だろう。まして、設定それ自体にオリジナリティは感じられないのだから。
但し、新しいミステリの可能性を垣間見せてくれた点だけでも、この作家のミステリでは最も読まれるべき作品になったと思う。
なお、カバーも帯も「何とかならんのか」と思ったが、このイラストってマイケル・ムアコックのカバーを一手に手掛けている新間大悟&佐伯経多だったんですね。

*1:『M.G.H.――楽園の鏡像』『海底密室』『ワイアレスハートチャイルド』『聖遺の天使』『旧宮殿にて』の五冊。

*2:但し、犯人が凶器を持ち歩いていた理由が弱い。