奇談蒐集家

奇談蒐集家 (創元クライム・クラブ)

奇談蒐集家 (創元クライム・クラブ)

奇談を論理の刃で切る。
自ら奇談蒐集家と名乗る男のもとに奇談を持ち寄る人びと。本物の奇談であれば高額報酬が与えられるが、すべては蒐集家の助手の推理によって解体されてしまうのだった。――という、一風変わった安楽椅子探偵物。一編一編の出来はそれほど強く印象に残るようなものではなく、シンプルすぎて肩透かしに近いものも含まれているが、一冊に纏まったものを通して読むとこれが面白い。シチュエーションの面白さと抜群の安定感を誇り、読んでいる間は値段分の楽しさを保障してくれる、さすがプロの仕事という感想を抱いた。舞台となる酒場の雰囲気が良く、また謎解きの対象となるのが「奇談」だけに毎回提出される謎が華やかで謎めいていて、太田忠司がこれまで手掛けた連作の中でもかなり好ましい*1。こういう類の楽しさを粗略にしてはならないと思う。集中ではとくに「水色の魔人」「冬薔薇の館」が秀逸。あと、装丁も秀逸である。

*1:個人的にいちばん好きなのは『ミステリなふたり』(幻冬舎文庫)。