プリズムの瞳

プリズムの瞳

プリズムの瞳

絵を描くだけのロボットに、存在価値はあるか。
ピイ・シリーズと呼ばれる、今は絵を描くこと以外の価値が無い旧式のロボットたちを物語の中心に吸えた連作SF。ピイは多くの人間に嫌われ迫害される。それは旧型だからという理由もあるのだが、では新型のロボットはどんな感じなのだろうと思ったら、新型は一切登場しない。というか、ピイ以上に高度なテクノロジーはほとんど登場しないので(しかしピイは旧型)、いったい文明がどれほど進んだ未来なのか見当をつけられない。そのためSFというよりは、これは迫害される者たちを描こうとした寓話に近いと思った。
しかし、寓話にしては、他の感情や解釈が入り込むことを許さないように、矢鱈と「ここはこう思え」という確定的な描き方がなされるので、かなり押し付けがましいという印象を受けてしまう。正直苦手な作風だ。――しかし、この作品集が不思議なのは、前半の三編はそうではないという点なのだ。この三編は一般文芸的に見て深みのある秀作もしくは佳作(とくに二編目「クラウディ・グレイ」は素晴らしい)だが、四編目「シュガー・ピンク」から俄かに他の話になってしまったような感がある。この連作の本題が「シュガー・ピンク」から本格的に開始するということ以上に、根本的に小説としてのあり方が変更されたような印象を持った。おまけに前半三編中でも、冒頭の短編「レリクト・クリムゾン」だけはなぜか良くできた短編ミステリとして読めるので、全体を読み進めていてかなり奇妙な感覚を覚えた。迷走というのは言い過ぎだが、複数のベクトルが存在している連作とは言っても問題ないだろう。
とはいえ、最後まで読むと「ああそういうことだったのか」とミステリ的な(飽くまでミステリ「的」な)収束を迎える要素があったり、旧式ロボットの存在価値をめぐり作者が辿り着いた答えがなかなかユニークだったりと、読み物としてはなかなか楽しかったと言えなくもない。ファンの方はおそらく楽しんで読まれるのではなかろうか。