落下する花―月読―

月読 落下する花

月読 落下する花

長編『月読』(文藝春秋)の続編となる短編集、四編を収録。
人が死ぬとき、その想いが例外なく「月導」になって現れる(形ではなく、色や現象になることもある)世界を舞台にした作品。それならば世界は月導だらけになって収拾がつかなくなるのではないか――などの異世界設定に対する違和感に目を瞑れば、これは前作より遥かに上質な出来栄えだと思う。死者の想いを読み取る青年が探偵役となっているだけに、人間心理の読み解きがプロットの核心に据えられていて(この構造は前作『月読』よりも一層クリアな形で読者に提示されている)、そのことが全体に独自の雰囲気と深みを与えている。
心理的などんでん返しが余韻を残す表題作「落下する花」、やや強引な構成だが手の込み具合にかけては集中随一の「溶けない氷」、苦い読後感が後を引く「そこにない手」といずれも佳作だが、シンプルな意外性と物語的転機を見事に融合させて一編の小説に仕立てた「般若の涙」がとりわけ素晴らしい。『月読』や『甘栗と金貨とエルム』(角川書店)など、この著者の最近の長編にはあまり感心しなかったが(主人公のスタンスが潔癖すぎて絵空事に感じられてしまった)、『奇談蒐集家』に続いてこの連作を読み、最近なら連作短編のほうが断然良いと感じた次第。