秋の牢獄

秋の牢獄

秋の牢獄

『夜市』に感心し、『雷の季節の終わりに』にはまったく感心しなかったが、今回はどうか。
恒川光太郎は現在、おそらく「出会いと別れ」を描くとき――もっと突っ込んで言うなら「放浪による出会いと別れ」を描くとき、最も光る作家なのだと思う。だから集中では「神家没落」が最も印象に残る。マヨイガ伝説に材を求めたと思しい、全国を移動する家に囚われた青年の話は、予想外の展開の末に物悲しい余韻を読者に齎す。ただ、その一方で、この作家の作品世界にファンタジー的(ゲームキャラ的/マスコット的)なキャラクターは水と油のようにも思える。長編『雷の季節の終わりに』にはそのせいで首を傾げてしまったし、本書で言えば表題作に「北風伯爵」が登場した途端、同様のことが頭に浮かんだ。もともとダーク・ファンタジー的なホラーを描く作家だと思っていたが、キャラクターまでファンタスティックにするのはあまり得策ではないような気がする(『雷の季節の終わりに』「秋の牢獄」を読んだ限りでは)。あるいは、いっそのことホラーから離れてダーク・ファンタジーに徹してしまったほうが良い結果を齎すのだろうか。
残る一編「幻は夜に成長する」は、恒川光太郎の作品では新機軸と呼んでも良いような内容で、今後の作風の幅の広がりに期待を持たせる佳作だった。