さよならバースディ

さよならバースディ

さよならバースディ

明日の記憶』で山本周五郎賞を受賞した荻原浩の受賞第一長編。
霊長類言語研究所で起きた事件の目撃者はチンパンジーだけ、という設定は北川歩実の『猿の証言』(新潮文庫)のほうが早く、またミステリとしての出来栄えも『猿の証言』のほうが上。しかしこちらには手馴れたエンタテインメントとしての楽しさがあり、気軽に手に取れる作品に仕上がっている。
引っ掛かるのは、読み進めるに従って読者の心に起こるだろう感情の起伏を、すべて技巧のみで作り上げようとしているような感があること。職人的と言ってしまえばそれまでで、一概に批判はできないが、しかしストーリーに作者自身の思いや真摯な思考は宿っていないような気がする。チンパンジーもただ可愛いだけの存在として描かれ、どこか空々しい。山本周五郎賞受賞第一作という華やかなバックグラウンドがありながら、この作品の評判をあまり耳にしないのは、そんなところにも理由があるのかも知れない。