そして今はだれも

そして今はだれも

そして今はだれも

『スタジアム 虹の事件簿』(創元推理文庫)でデビューした著者の長編ミステリ。
この著者の長編は『赤ちゃんがいっぱい』(創元推理文庫)に続いて本書が二冊目だが、閉鎖的傾向を持つコミュニティの中で起きた事件という設定が『赤ちゃんがいっぱい』と共通するものの(『赤ちゃんがいっぱい』は怪しげな胎内育児施設、本書は伝統に縛られたお嬢様学校)、出来栄えは本書のほうが上。コミカルな連作短編のイメージが強い書き手だが、今後は長編のほうでも楽しませてもらえそうだ。全体的にドライな仕上げも好感触*1
ミステリとしては、疑わしい四人が一度すべて推理によって犯人には成り得ないと否定され、その後でもう一度推理を組み直してゆく終盤が読ませどころ。

*1:青井夏海の〈日常の謎〉は比較的、現代社会と繋がっているものが多く、そこが好感の持てる点でもある。他の〈日常の謎〉の書き手が作り出す謎(とその解決)はあまりに私的、個的なので、ときにはそれらに何の関心も持てなくなってしまうのだ。