聖少年

聖少年

聖少年

おそらくはボーイズ・ラブ系の作家による、一般文芸進出第一作*1。最初は伏せられているものの、読んでいると簡単に想像がつくので書いてしまうが、男相手の援助交際を行う男子高校生たちと、その仲間に引きずり込まれた同級生の少年の物語である。
展開にはどことなく既視感がまとわりつくし(とくにタイトルは何とかならなかったものか)、男性同士の売春行為を描く筆にも現実感が薄いので*2、前半にはとりたてて見るべきところはないけれど、この小説の真価が表れるのは後半なのだ。中盤にひとつ意表をつく展開が用意されており、そこからストーリーは一気に破滅の方向へと突き進む*3
好みからすれば、もっと私立探偵と主人公の少年との心理戦を読ませてもらいたかったところだし、誰にでもお勧めできる作品では到底ないが、この著者の将来性には注目しておきたい(といっても、略歴によると既に23冊の著書があるそうだが)。少年たち、とくに、引きずり込まれてしまった孤独な少年の痛ましさが印象に残った。

*1:その後判明したが、正体はボーイズ・ラブ作家の徳田央生なのだそうだ。そういえばこの作家は小学館文庫書下ろしで『探偵サイトへようこそ』という本を出していた。

*2:この辺りは英米ゲイ文学のリアルさと比べると落差が歴然としており、「所詮ボーイズ・ラブ系」と言われても仕方のないところだろう。あと、男性客相手に少年を売るという商売は、日本では江戸時代に既にあったので(陰間茶屋)、歴史的観点からすればこの小説はそれほどセンセーショナルな題材を扱っているわけではない。

*3:漠然と、ドナ・タートの傑作『シークレット・ヒストリー』や小池真理子の『恋』を思い出した。