ブルースカイ

ブルースカイ (ハヤカワ文庫 JA)

ブルースカイ (ハヤカワ文庫 JA)

とても面白かった。しかし、この作品が桜庭一樹の最高傑作、という論調には首を傾げる。
本書は、著者初の一般向け作品となった『少女には向かない職業』よりさらに一般読者層を意識して書かれた内容だろう。第一部では中世ドイツの魔女狩りが、第二部では近未来のシンガポールを舞台にしたSFらしい光景が描かれる。しかし、ライトノベル時代から桜庭作品を愛読してきた読者は別として(そういった読者はこの作品を「桜庭一樹の新境地」として楽しむことができるから)、『ブルースカイ』で初めて桜庭作品に出合った読者にとって、この小説は『少女には向かない職業』、あるいは『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』や『推定少女』よりもインパクトが弱いのではないだろうか。――つまり、魔女狩りやSF的光景を描いた小説を、これまでにいろいろ読んできた読者には。それら過去の小説を凌駕するような突出したインパクトは、(面白いことは間違いないのだけれども)第一部、第二部ともにあまり感じられないのだ*1
だから第三部で桜庭一樹らしい世界が描かれるに及んで、正直かなり安堵した。ラストの開放感と喪失感は、なかなか他の作家の作品では体験できないものだ。個人的には、ここに本書の凄さがあると思う。
いずれにせよ、『ブルースカイ』が本年度の重要な作品であることに間違いは無いが。

*1:あとはそれぞれの部が如何に美しい融和を遂げるか、という点が重要となるが、作者は敢えてこの部分を曖昧にしてストーリーを完結させているので、評価は読者それぞれの好みの問題に収斂することになるだろう。