向日葵の咲かない夏

向日葵の咲かない夏

向日葵の咲かない夏

 不条理な展開なのにロジカルという異形のミステリ。
 内容を丁寧に説明しても「はあ?」としか言われそうにないので思いきり端折ると、首吊りとか蜘蛛とか犬猫殺しとか「先生、男の子好きなんですか」とか、そんな話。徹頭徹尾暗く、ラストに至ってさらに嫌な話に発展するが、その不快さを堪えることができるなら、これは怒涛のどんでん返しを楽しめる素晴らしい本格ミステリである。正直、都合良くつくられた部分も目につくが*1、終盤の迫力はそれを補って余りある。登場人物は決して多くないのに、これだけのどんでん返しを繰り返してみせるのは至難の業だろう。『漆黒の王子』の初野晴も相当に異色な本格の書き手だと思うが、道尾秀介もきわめて変(勿論良い意味)。今年現れた本格ミステリ系の新人の中では最も楽しみな存在と言える。

*1:読み終えたひとしか判らないことを例として書いておくが、たとえばラストで判明する向日葵の使い方、あるいは腐臭に反応するなら燃えるゴミの日は大変では、など。