蒼火

蒼火

蒼火

 デビュー作『夏の椿』の前日譚。若き日の主人公が辻斬りの犯人を追う。
 前作が時代ミステリだったのに対し、本書は(帯にはなぜか時代ミステリとあるけれども)ミステリと距離を置き、飽くまで時代小説としての面白さを追求している。その結果なのか、錯綜気味(あるいは盛り込みすぎ)だった前作に比べて遙かに小説としての完成度が上達していて喜ばしい。これは将来が楽しみだ。
まだ脇筋を多く用意しすぎという憾みはあるし、犯人当ての興味を追求しているわけではないのだから登場人物の数ももう少し絞り込んだほうが良かったのではないかと思うが、時代小説では久々に力強さを感じさせる新鋭の登場ではないか。この勢いでふたたび時代ミステリにも挑戦してほしい*1

*1:北重人は1999年に短編「超高層に懸かる月と、骨と」(このタイトルはすばらしい)でオール讀物推理小説新人賞を受賞しており、ミステリにも愛情があるものと推察されるので……。