サスツルギの亡霊

サスツルギの亡霊

サスツルギの亡霊

カタコンベ』で乱歩賞を受賞した新鋭の受賞第一作。描かれるのは、南極観測隊員の間で起きた連続殺人。
実年齢より背伸びをし*1、南極を舞台にして大人のドラマを描こうとしたチャレンジ精神は高く評価されて然るべきものだ。しかしその結果、舞台の壮大さと登場人物の魅力が釣り合わず、そこかしこに稚さが見え隠れしてしまっている。とりわけ主人公の行動原理が子供っぽく感じられてしまうのだ。おそらく作者はハードボイルド的な、一匹狼的な主人公を造形したかったのだろうが、結果的には無鉄砲な我が儘キャラに終わってしまったように思える*2。他の登場人物に関しても、描き分けができているとは言いかねるし、風格が無い。全体的に作者の余裕の無さが感じられる作品だった。
舞台設定は壮大でも良いが、登場人物の造形や彼らがつくり上げるドラマ、そして言葉遣いはもっと身の丈に合ったものを選び取ってほしい。今の年齢でしか描けないものだってたくさんあるだろう。駄作ではないが、今後が楽しみな書き手だけに、今回の作品はちょっと辛辣にならざるを得ない。

*1:神山裕右佐藤友哉と同い年。

*2:男というものは所詮、いくつになっても子供だ。だからこそ表層的な「男らしさ」を振り翳すと、妙に幼稚に見えてしまいがちである(「武士道」とか「卑しい街を歩く騎士」などの思想やドリームで包んでやるか、逆に主人公の性格を殊更に非情・暴力的にしてやるか、あるいは最初から「男らしさ」を描かずに主人公のライフスタイルなどを描いて読者に親近感を持たせることで、ハードボイルドは生き延びてきたのだと思う)。真保裕一すら、この弊害を逃れられていない場合が多い。