饗宴 ソクラテス最後の事件

アテナイを揺るがす事件にソクラテスが立ち向かう本格ミステリ
全体を通してかなり回りくどい筆致で書かれているが、これはソクラテス自身が回りくどいひとだったようなので(よくは知らない)仕方ないことだろう。回りくどさを我慢して最後まで読み進めると、かなり読み応えのある解決編に辿り着くことができる。本格ミステリとしてこういうタイプの結末は美しくないと思う読者もいるだろうが、この作品はそのような結末をつけることに重大な意味があるので諒としたい。そしてこの作品で驚いたのは、注記に本格ミステリ的な意味を持たせていることで、こういう試みは高く評価しておかなければならないと思う。完成度は『はじまりの島』に、好みでは『黄金の灰』に劣るが、結末の小説的余韻とテーマの昇華は本書が最上。充実した読書時間を過ごさせてもらった。