夜市

夜市

夜市

第12回日本ホラー小説大賞受賞作。直木賞候補作。
受賞作「夜市」と受賞第一作「風の古道」の二編を収録。ともに抑制のきいた品のある筆致で、たいへん素晴らしい。両方同じような話と言ってしまえばそれまでだが、むしろ同じような構成の話を書いていながらきちんと違う作品世界を描き分けている点を評価したい。
黙市を題材にした「夜市」のほうが、ファンタジー的設定に凝っているぶん作為(つくりごと)の匂いを感じてしまうものの、「風の古道」よりも好みではある。しかし完成度としては、後半の展開が間延びしているように感じられてしまう「夜市」より、ロード・ノベル的な面白さを導入することで最後まで飽きさせない「風の古道」のほうが優れている*1。情感の盛り込み加減も、さらりとしている割に心に残る。ノスタルジックな雰囲気が効果的に働いているからだろう。
案外器用な書き手ではないかという気もするので、今後、恒川光太郎がどういう具合に自らの作品世界を広げてゆくか注目したい。

*1:それなのに「夜市」のほうが好みなのは、「風の古道」の最後の一行が明らかに蛇足だと思うからだ。この一行で美しい余韻を台無しにしてしまったように思える。